愛犬が高齢になると、「ご飯はまったく食べないのに、水だけはたくさん飲む」という状態が見られることがあります。「どこか具合が悪いのではないか」「このまま弱ってしまうのではないか」と、不安で胸が締め付けられる飼い主様も多いことでしょう。
しかし、「水は飲む」という行動は、愛犬がまだ懸命に命をつなごうとしているサインでもあります。この記事では、老犬が水しか飲まなくなる原因や、自宅でできる食事の工夫、そして「食べない」という選択を受け入れ、穏やかな最期を迎えるための心の準備について解説します。
老犬が「食べないが水は飲む」ときに考えられる体の変化
今まで大好きだったご飯に見向きもしなくなる一方で、水飲み場には何度も足を運ぶ。こうした行動の背景には、老化による自然な変化と、病気が隠れている可能性の両方が考えられます。
消化機能と代謝の低下による「自然な枯れ」
老犬になると、若い頃のように走り回ることが少なくなり、1日の大半を寝て過ごすようになります。運動量が減れば、当然ながら体が必要とするカロリー(エネルギー)も減少します。
また、内臓機能の衰えにより、食べたものを消化・吸収する力が弱まってきます。この時期の体は、エネルギーを「食べること(消化)」に使うよりも、排泄や今の体の状態を維持することに優先して使おうとします。そのため、食欲が落ちるのは、ある意味で体が楽な状態を保とうとする自然な防御反応ともいえます。
内臓疾患による「渇き」と「吐き気」
一方で、病気が原因で「水は飲むが食べられない」状態に陥っている場合もあります。特に高齢の犬に多い腎臓病や糖尿病などは、体内の水分が過剰に排出されてしまうため、喉が激しく渇き、水を大量に飲むようになります。
しかし同時に、これらの病気は体内に毒素が溜まる(尿毒症など)ことで、強い「吐き気」や「口内の不快感」を引き起こします。その結果、「喉が渇くから水は飲みたいけれど、気持ちが悪くて固形物は受け付けられない」という、矛盾した状態が生まれてしまうのです。
病院へ行くべき?様子を見るべき?危険サインの見分け方
食欲不振が「老い」によるものか、緊急性の高い「病気」によるものかを見極めることは非常に困難です。迷った際の判断基準として、以下のサインを確認しましょう。
即受診が必要な「危険な症状」リスト
以下のような症状が見られる場合は、できるだけ急いで動物病院を受診しましょう。
- 水さえ飲まなくなった
- 嘔吐や下痢を繰り返している
- 呼吸が荒い、または苦しそうにしている
- 歯茎や舌が白っぽい(貧血のサイン)
また、丸1日(24時間)以上まったく何も食べない状態が続く場合も、脱水や低血糖のリスクが高まるため受診の目安となります。
自宅で様子を見ても良いケース
一方で、以下のような場合は、少し自宅で様子を見ても良いかもしれません。
- 散歩に行きたがるなど、愛犬に元気がある
- いつものフードは食べないが、好物のおやつなら食べる
また、季節の変わり目や気圧の急激な変化など、環境的な要因で一時的に食欲が落ちている可能性もあります。愛犬の表情や動きをよく観察して、緊急性を判断しましょう。
まずは試したい!老犬の食欲を取り戻す「優しい」食事ケア

「少しでも食べてほしい」と願う飼い主様のために、愛犬の体に負担をかけず、食欲を刺激するケア方法をご紹介します。
嗅覚と温かさを利用したアプローチ
犬の五感の中で、最期まで残ると言われているのが「嗅覚」です。視力が落ち、耳が遠くなっても、美味しい匂いには反応することがあります。
いつものフードを電子レンジで人肌程度(38〜40度くらい)に温めてみてください。温めることでフードの香りが立ち上がり、愛犬の食欲を刺激できる可能性があります。
水分補給を兼ねたフード形態への変更
ドライフードを食べている場合は、ぬるま湯でふやかしたり、ウェットフードに切り替えたりすることで、食事と同時に水分補給もできるようになります。
また、噛む力が弱まっている老犬には、ミキサーにかけてペースト状にするのもおすすめです。噛む必要がなく、飲み込むだけで栄養が摂れるため、食事へのハードルを下げることができます。
環境と介助による食事サポート
加齢により首や足腰の筋力が低下すると、床にある食器まで頭を下げる姿勢がつらくなります。食器を台の上に乗せるなどして位置を高くし、楽な姿勢で食べられるよう工夫してあげましょう。
自力で食べるのが難しい場合は、シリンジ(針のない注射器のような器具)を使って口の横から少しずつ流し込む「強制給餌」という方法もあります。ただし、誤って気管に入ると誤嚥性肺炎を起こす危険があるため、必ず獣医師の指導のもと、無理のない範囲で行うことが大切です。
それでも食べない時は…「食べない」を受け入れる選択
さまざまな工夫を凝らしても食べてくれない時、飼い主様は無力感に襲われるかもしれません。しかし、それは決して飼い主様のせいではありません。
枯れるように旅立つ「老衰」の過程
老犬介護の現場では、無理に食べさせることが、かえって弱った内臓の負担になり、愛犬を苦しめてしまうフェーズ(段階)があると考えられています。
「食べない」ことは、必ずしも「苦しい」こととは限りません。体から水分と栄養が抜けていくことで、痛みや苦痛を和らげる脳内物質が分泌され、安らかに眠る準備に入っている可能性もあるのです。
最期までできる最高のケアは「水分」と「そばにいること」
食べなくなってしまった愛犬に対して、点滴などの延命処置を続けるか、自然な形で見守るかは、非常に難しい決断です。点滴は一時的に楽になる場合もありますが、体の状態によっては負担になることもあります。
固形物を食べなくなっても、口元を湿らせてあげるなどのケアは最期まで続けられます。「食べてくれない」と悩み、焦るあまり愛犬との時間を辛いものにしてしまうよりも、ただそばにいて体を撫で、穏やかな時間を共有することこそが、何よりのケアになるはずです。
まとめ|愛犬のペースに寄り添い、悔いのない時間を
老犬がご飯を食べなくなることは、老化のサインのひとつです。まずは病気が隠れていないかを見極め、できる限りのケアをしてあげましょう。
それでも食べない場合は、「もう十分頑張ったよ、ありがとう」という愛犬からのメッセージかもしれません。食べる量に一喜一憂するのではなく、愛犬が望むペースに寄り添ってあげてください。大好きな飼い主様が笑顔でそばにいてくれることこそが、老犬にとって一番の安心材料であり、幸せな時間となるはずです。

